せっかく収穫したバジルが、使う前に黒く変色してしまった…
こんな経験はありませんか?
あれだけ爽やかだった香りも、枯れたような何だか嫌な臭い…
バジルは、収穫後の保存が少し厄介なハーブです。
スーパーマーケットの野菜売り場では、他のハーブたちは元気なのに、バジルだけが萎れてぐったりしている姿を見かけます。
これは「バジルが他のハーブに比べて売れ残りやすいから」ではありません。
むしろバジルは、ダントツの人気を誇る売れ筋のハーブです。
実は他のハーブたちと同じ条件で保存すると、バジルは長持ちしません。
野菜売り場のハーブコーナーは、バジルにとっては過酷すぎる環境のため元気がないのです。
さて、あなたのバジルは大丈夫ですか?
もし、あなたが丹精込めて育てたバジルが、収穫後に直ぐに黒く変色したり、萎れたりしているようなら、バジル好みの環境で保存できていないのかもしれません…
調理して食べる頃には、本来のバジルよりも風味や栄養が大きく損なわれている可能性もあります。
今回は、バジルにとっての適切な保存温度を始め、バジルを変色させずに、鮮度を長持ちさせるための正しい保存方法について紹介します。
バジルの正しい保存方法を知るために、まずは「野菜の鮮度は、なぜ落ちるのか?」についての解説からすすめていくね!
なぜ?収穫すると野菜の鮮度が落ちる理由
バジルに限らず、すべての野菜は、収穫すると時間の経過とともに鮮度が落ちていきます。
鮮やかな緑色だった葉っぱは、黄色く色褪せ、ツヤがなくなります。また、瑞々しさやハリも失って、ぐったり萎れてしまいます。
見た目の鮮度が落ちた野菜の多くは、栄養に乏しく、収穫したてのような甘みやうま味もありません。
言うまでもなく、私たちが「食べたい!」と感じるのは、鮮度の良い野菜です。
では、収穫した野菜から鮮度が失われてしまう理由を、あなたは説明できますか?
「古くなれば、劣化するのは当然!」
と、深く考えたことがないという方も多いのではないでしょうか?
鮮度が落ちる理由は、野菜は収穫後も生きているからです。
生きているということは、呼吸をしているということ。
呼吸をすると、野菜に蓄えられいる糖や栄養は分解され、水や二酸化炭素となって外に放出されます。
呼吸をすればするほど、体の中の水分、そして甘みや栄養などの成分が失われていくため、鮮度が落ちてしまうのです。
収穫後の野菜は根から水や栄養を吸収できないから、体の中の水や栄養を少しずつ切り崩すことで生きながらえているの…
また生きている野菜は、体温を調整するために、体から水を蒸散させます。
周りの温度が高いという理由によっても、野菜の水分は失われていくのです。
収穫後の野菜の鮮度を落とさないためには、呼吸や蒸散の量を低くコントロールして、水や養分の消耗を抑えることが大切になります。
さらに、ポリ袋に入れるなどして、乾燥させないようにすることも大事です。
呼吸や蒸散は、温度が上がる程に活発になります。
そのため多くの野菜は、ポリ袋やラップなどで覆って5℃から7℃の低温を保てる冷蔵庫の野菜室で保存すると、鮮度が長持ちするのです。
ところが、この5℃から7℃の保存が当てはまらない野菜もあります。
バジルは、この例外となる野菜の一つです。
バジルが黒く変色した原因
もし、収穫したバジルが数日程で黒く変色したのなら、原因はおそらく低温障害です。
低温障害とは、バジルの細胞が寒さで壊死する現象です。
バジルを、冷蔵庫で保管していませんか?
野菜の鮮度を保つ秘訣は、呼吸や水分の蒸散を抑えること。つまり、低温保存が原則になります。
ところが、暑い地域で生まれた野菜などには、寒い場所が極めて苦手なものもあります。
イタリア料理のイメージが強いバジルですが、意外なことに原産地はインド・東南アジア周辺の熱帯地域。栽培中も20℃以下で葉や茎の生長が停滞し、さらに10℃以下が続くと低温障害で枯れてしまいます。
バジルは暑いところで良く育ち、寒さにはめっぽう弱い野菜。
収穫後も、この性質は同じです。
家庭用冷蔵庫の設定温度は冷蔵室なら2℃前後、野菜室なら5℃~7℃程が一般的です。つまり庫内の温度は10℃よりも低い環境になります。
野菜室の5℃~7℃は、野菜の呼吸や蒸散を低く抑えることができる温度です。そのため多くの野菜にとっては、鮮度が長持ちさせる上での理想的な環境です。
バジルも冷蔵庫に入れると、過剰な呼吸や蒸散を抑えられるため、水や養分の消耗を減らすことができます。でも、低温障害で細胞が壊死してしまうため、命そのものを縮めてしまうのです。
さて、ここで冒頭でお話した「野菜売り場では、バジルだけがぐったり萎れている…」という件についても、少し触れておきます。
スーパーマーケットのハーブ売り場では、他のハーブに比べて、バジルの鮮度の悪さがしばしば目につきます。
実は、イタリアンパセリやセージ、フェンネルなどのハーブも、一般的な野菜と同様に5℃~7℃の低温で保存することで鮮度が長持ちするハーブです。また、ミントにいたっては越冬できるほどの強い耐寒性があり、2℃まで下げて保存することができます。
なぜ野菜売り場のバジルがぐったりしているのかが、お分かり頂けたでしょうか?
日本でお馴染みのハーブのうち、バジルだけが唯一、低温保存に適していないのです。
でも、売り場の戦略としてハーブ類同士を並べて陳列したい…
すると、少数派のバジルが、他のハーブに合わせて生きにくい環境を強いられてしまうため、鮮度を長持ちさせることができないのです。
黒く変色したバジルは食べられる?
ところで、冷蔵庫で保存して黒く変色してしまったバジルは、食べることができるのでしょうか?
低温障害で変色した部分は、細胞が壊れて死んでいます。
そのため、生きたバジルがもつ瑞々しさや、爽やかな風味はもはや期待できません。また、腐敗が進んでいる場合もあるため、保存中に変色してしまったバジルは食べない方が良いでしょう。
後で紹介する、調理や加工によって褐色になったバジルは食べても問題ないわよ
バジルの保存適温は?
では、バジルの鮮度を長く保つためには、何度で保存するのが最も良いのでしょうか?
これはポリ袋で密閉して冷蔵庫(冷蔵室)と常温、それぞれで5日間保存したバジルです。
5日間の気温は25℃前後、冷蔵室の設定温度2℃でした。
常温保存のバジルは、少し水分が抜けた様子はありますが、葉にハリとツヤがあり、変色もしていません。
一方で、冷蔵室で保存したバジルは、葉が萎れて、生長点付近を中心に低温障害とみられる変色が始まっています。
バジルは、10℃以下で低温障害が起きやすくなるため、2℃の低温に設定された冷蔵室では、このように直ぐに傷んでしまいます。
野菜室は、冷蔵室よりはまだ良いですが、一般的な設定温度は5℃~7℃ほど。バジルには寒すぎるため長期の保存には向きません。
今回は5日間でポリ袋を開きました。
でも、あくまで私の経験になりますが、25℃の気温なら、常温では2週間近くはシャキッとしたままの状態を保つことができます。ポリ袋に詰めるバジルの量や、収穫時のバジルのコンディションによって保存できる期間が短くなることもありますが、常温保存したときの見た目の鮮度は、明らかに冷蔵保存よりも長持ちするのです。
しかしながら、常温保存が必ずしも良いとはいえない理由もあります。
実は、バジルの鮮度を長く保つためには12℃が適温という、研究データがあります。(※)
バジルの常温保存が望ましくない理由
常温保存にも、2つの大きな問題があります。
まず、葉の変色は、常温保存が原因でおこる場合もあります。
密閉されたポリ袋の中で呼吸を続けると、バジルは質の良い呼吸ができなくなります。袋の中で空気中の酸素が不足し二酸化炭素が充満するためで、二酸化炭素の濃度が一定レベルを超えると葉の変色が起こります。
温度が高いほど呼吸が活発になるため、バジルを常温で保存することで二酸化炭素の濃度は上がりやすくなるのです。
また、爽やかな香りで人々を魅了するバジルですが、実は抗酸化作用や抗菌作用などをもつ機能成分にも富んだ野菜でもあります。
バジルの見た目や香りは、ポリ袋で密閉した状態で常温保存すると、比較的長く保つことができます。
でも、常温では収穫前と同じように活発に呼吸するため、体内に蓄えられている成分が激しく消耗していきます。失われる成分の中には、優れた効能をもつビタミンCやポリフェノール類なども含まれています。
ハーブは見た目や香りも大切ですが、こうした機能成分も大きな魅力の一つ。
バジルの鮮度は、見た目のハリやツヤ、香りの強さ、そして味や機能成分の含有量などの全てを加味しなければなりません。
水分や香り、美味しさや機能成分の消耗をできるだけ抑えることができ、さらに低温障害がおこらない最低温度が12℃なのです。
バジルの正しい保存方法を紹介
バジルは、収穫後の保存が難しい野菜です。
鮮度が維持しにくい夏の季節の野菜にも関わらず、冷蔵庫に入れると寒さで細胞が壊れてしまうからです。
保存温度は他のハーブよりも注意が必要で、基本的には冷蔵庫での保存には適しません。一方で、常温でも鮮度は落ちてしまいます。
家の中に、バジルが安らげる場所は無いに等しいのよね…
ただし、葉の細胞が壊れても、バジルの風味や色合い、栄養が全て失われるわけではありません。
バジルの風味は、調味料に香りを移したり、ペーストなどに加工することで冷蔵や冷凍でも保存することもできます。
ここで、バジルの姿のまま少しでも長く鮮度を保存する方法と、調味料に浸すなどして長く風味を残す方法とを紹介していきます。
冷蔵または常温で保存する方法
バジルそのままの姿で、鮮度を長く保つための方法です。
ポリ袋に入れる
ポリ袋に入れて口をしっかり縛って密閉します。
これは、水分が抜けると鮮度が落ちるためです。密閉性の低いシール容器などでの保存は乾燥しやすく、すぐに萎れてしまうためおすすめしません。
バジルが最も長持ちする保存適温は12℃です。
ただし、夏の家の中に12℃を保てる場所はほぼありません…
気温が25℃以下の時には光が当たらない場所で常温で保存し、25℃よりも高いときには冷蔵庫の野菜室で保存します。
野菜室では低温障害のリスクがありますが、数日程度ならもちこたえます。冷蔵室には絶対に入れないでください。
バジルの香りは、適温で保存できている場合でも収穫から1週間ほどで半減してしまいます。常温、野菜室を問わず、できれば収穫から3日以内には、バジルは使い切りたいものです
水に挿す
ポリ袋や冷蔵庫には入れずに、水に挿して常温で保存する方法です。
バジルを直ぐに使いたいときに便利で、吸水されるため萎れてしまうこともありません。
ただし、呼吸と光合成で身体の養分が消耗されていくため、鮮度は長くは持ちはしません。
水は毎日取り換えて、ポリ袋での保存と同様に3日程度で使い切りましょう。
冷凍で保存する方法
バジルの葉は、冷凍することができます。
ただし葉の細胞が壊れてしまうため、解凍しても元の状態には戻りません。
使う時は、解凍しないで、凍ったままの状態で料理に加えます。
1か月を目安に使い切りましょう。
冷凍バジルの作り方
バジルの葉は茎から切り離し、葉の汚れや水分はキッチンペーパーでよく拭き取りましょう。ジッパー袋に、葉と葉ができるだけ重ならないように入れ、袋を閉じて冷凍庫で保存します。
完全に凍った状態で袋の上から手のひらでパンパンっと叩くと、葉が細かく砕けます。凍ったままの状態で、料理のトッピングや風味付けとして散らせば、乾燥させたバジル粉末よりもフレッシュ感のある爽やかな風味が楽しめます。
オリーブオイルに浸して保存する
バジルの香り成分は油に溶け出しやすいため、オリーブオイルに浸すことで風味が保存できます。
バジルの香り成分が移ったバジルオイルは、サラダのドレッシング、グリルした肉や魚の風味付け、パスタなど、使い勝手が抜群です。
バジルオイルは常温で保存し、3週間を目安に使い切りましょう。
バジルオイルの作り方
・バジルの葉 3枚
・オリーブオイル 150ml
バジルの汚れや水分をキッチンペーパーで拭き取った後しっかり乾かし、香りが出やすいように軽く揉みます。消毒した瓶にバジルの葉を入れて、オリーブオイルを注ぎ、日光が当たらない冷暗所に置いてじっくりと香りを移します。
漬け始めの頃は、バジルがオリーブオイルの表面に浮き上がってきます。バジルが空気に触れた状態だとカビなどの原因となるため、瓶を揺するなどしてオイルの中に沈めてあげるようにしましょう。
1週間ほどで完成です。
バジルの葉を漬けたままだと変色や腐敗の原因になるため、完成後はバジルの葉を取り出します。漬け終えたバジルの葉は、刻んで料理の風味付けやソースなど使えます。
塩に漬けて保存する
バジルの葉を塩漬けにして保存すると、乾燥させたものに比べて、バジル特有の爽やかな風味を格段に良い状態で保つことができます。
しかも、冷蔵庫で1年間の保存が可能です。
バジルそのものはもちろん、香りが移った塩も調味料として使えて一石二鳥です。
バジルを塩につける方法は、こちらで詳しく紹介しています。
▶バジルの塩漬けの作り方
塩漬け保存したバジルの、おすすめの使い方はオニギリです!
塩がついたままバジルを微塵切りにして、炊き立てごはんに混ぜ込むだけ。
バジルの爽やかな風味に、程よい塩味がプラスされた、食欲が減退しがちな夏の季節に食べたいパワー満点オニギリです。
さて、バジルの冷凍、塩やオイル漬けは、少量のバジルに適した保存方法です。
次に、バジルの葉が大量に収穫できたときの保存方法について紹介します。
たくさんのバジルの保存には、ひと手間加えてバジルソースなどに調理するのがお勧めです。バジルソース以外にも、バジルバターや挽肉との炒め合わせなどアレンジすることもできます。
いずれも調理後に冷凍保存ができるため、バジルの爽やかな香りを長く楽しむことができ、ストックしておけば普段の料理の幅も広がります。
たくさん収穫して余ってしまった時にお勧め!冷凍保存もできるバジルのアレンジ
バジルがいっぱい採れすぎて、とても直ぐには使い切れない…
そんな時は、バジルソースを作るのがお勧めです。
バジルソースは、バジルを大量に消費することができうえに、冷凍して保存することができます。
原料のオリーブオイルが香りを包み込むため、そのままの姿で置いておくよりも、バジルの風味をしっかり保存することができます。
同じように、バジルバターや挽肉との炒め合わせもお勧めです。
バジルソース作りやバジルバター作りは、少し難しそうなイメージがあるかもしれませんが、実はとっても簡単です。
どれも、所要時間は15分程度よ!
では、作り方について紹介していきますね。
バジルソース
バジルソース作りは、バジル料理の王道です。
バジルソースを手作りするなんて、大変そう…
せっかく鮮度の良いバジルがたくさんあるにもかかわらず、バジルソース作りに二の足を踏む人も多いようです。
いやいや…バジルソース作りは簡単で、それほど面倒な作業もありません!
私は、しばしばバジルソース作りを「ホームベーカリーでパンを焼くみたいないもの」と例えます。
基本的には、材料を全て放り込んでミキサーのスイッチを押すだけですから。
ここでは、面倒くさくない、誰でも作れるバジルソースの作り方を紹介しています。忙しくて手間暇かける時間がないという方にお勧めの作り方です。
あくまでザックリ作るホームメイド仕様のため、丁寧な料理が好きな方、料理を専門にされている方は参考にしないでくださいね(笑)
▶バジルソースの作り方
バジルソースはジッパー袋で冷凍保存しておくと、とても便利です。
使う時は必要な分だけポキっと折って、自然解凍させるか、凍ったまま鍋やフライパンで加熱します。
バジルバター
刻んだ材料を、柔らかく溶かしたバターに練り込むだけ。バジルソースよりもさらに簡単です。
▶バジルバターの作り方
バジルバターも冷凍で保存できます。ココットに入れて冷凍ストックしておくと、とても便利ですよ!
バジル塩そぼろ
イタリア料理のみならず、和・洋・中の全てのジャンルの料理に使える万能なおかずの素です。
あっという間にできて、保存も簡単。
▶バジルそぼろの作り方
冷凍庫でストックしておけば、パスタやオムライス、ガパオライスなどの具材としても重宝します。フレッシュなバジルをそのまま閉じ込めているので、ドライバジルで調味したものよりも風味豊かな料理に仕上がります。
保存調理に使うバジルは新鮮なもので!
収穫後、バジルの鮮度は時間と共に失われていきます。
例え良い条件で保存をしても、1週間経つと香りは半減します。
バジルは、そのままの姿では鮮度を保つことが難しい野菜ですが、特有の爽やかな風味はオリーブオイルなどを使って調理や加工することで保存することができます。でも、調理や加工をする時点で、既に風味が失われているようなら意味がありません。
バジルをバジルソースなどに調理や加工するときは、必ず鮮度の良いものを使いましょう。できれば収穫したてのものが理想ですが、最低でも3日以内に収穫したものが必須です。
※参考文献
「貯蔵中における生鮮バジルの香気の変化」日本食品保蔵科学会誌 2013 野口有里紗・市村匡史
「香気および機能成分に着目したスイートバジルの収穫後の品質に関する研究」 日本食品保蔵科学会誌 2018 野口有里紗