窒素飢餓と有機肥料や堆肥のC/N比(炭素窒素比)|バジルを育てる肥料

窒素飢餓とは植物が生長に必要な窒素成分を、土壌から吸収できなくなる事で起こる障害です。窒素はどの植物にとっても欠かすことができない要素ですが、葉っぱをどんどん摘み取るバジルにとっては特に重要です。
窒素飢餓は主に有機肥料や堆肥を投入した時に起こりがちな障害です。家庭菜園、ガーデニングでは有機質資材を使用する方も多いかと思いますが、メカニズムを正しく理解していれば防ぐことも可能です。
今回は植物や微生物における窒素の働きと吸収の仕組み、そして窒素飢餓を回避するための対策について説明します。

肥料成分 窒素(N)の働きと性質について

窒素(N)は植物にとって非常に重要な三大要素の一つで、市販の肥料の袋には含有量の記載が義務付けられています。植物の栽培で土に肥料を入れる主な目的は有機肥料、化学肥料を問わず「窒素の投入」と言っても過言ではありません。

なぜ、窒素は必要なの?

窒素(N)が不足すると葉の緑色が薄れ、植物全体の生長が滞ります。窒素(N)は葉緑体の重要な構成要素であり、また植物の葉を肥大させる主成分であることから、「葉肥」とも呼ばれます。
しかし実は葉以外にも、根、茎、花の全てが窒素が無くては存在すらできません。窒素(N)は全ての細胞の材料であるタンパク質の欠かす事の出来ない構成要素だからです。ちなみに、葉緑体も一種のタンパク質です。

ぴっこ
ぴっこ

細胞の材料である窒素(N)は、植物だけじゃなく、全ての生物にとって欠かす事の出来ない重要な要素。
もちろん、土壌中に住む小さな微生物にとっても同様なの。

これ、今回のテーマの重要なカギとなるのでしっかり覚えておいて!

さて、植物を育てる為にわざわざ窒素(N)が豊富な有機肥料を入れたにもかかわらず、植物が窒素(N)を受け取ることができない窒素飢餓という症状があります。窒素飢餓は化学肥料では生じず、有機肥料の施肥で発生する障害です。
窒素飢餓の原因を知るにあたっては、まず有機物から植物が窒素(N)を吸収するメカニズムについて理解する必要があります。

窒素は、どうやって吸収されるの?

いくら土の中に窒素(N)が存在していても、根から吸収しやすい状態になっていなければ、植物は体内に取り込むことができません。「根から吸収されやすい状態」とは、土のなかで吸いやすいようにバラバラに溶けて分解されている状態です。

ぴっこ
ぴっこ

私たち人間も、収穫したままの稲わらに付きの米は食べられないよね(いや、ヒヨコの姿だったら食べられるかも…??)
脱穀して、もみ殻を取って、炊飯器で柔らかく炊いて、初めて食べて栄養吸収ができる!
植物も一緒なの。
稲わらごと食べたら、消化不良でおなか壊しちゃうね…

有機質肥料中の窒素(N)の大半は、他の分子とくっ付いてタンパク質アミノ酸の一部として存在しています。この大きな塊を微生物が何段階かに分けて分解し、植物にとって吸いやすい小さな窒素(N)になるのです。

では、その過程のイメージを見ていきましょう!

タンパク質とは、数十個以上のアミノ酸が鎖のように繋がったものです。このアミノ酸の構成要素の中には、窒素(N)と炭素(C)が含まれます。

さて、有機肥料の「有機」とは何をさすのか知っていますか?
タンパク質やアミノ酸のように構成要素に炭素(C)を含む化合物を有機物と呼びます。そして成分に炭素(C)がくっ付いた有機物が主体の肥料が有機肥料、これを積極的に用いた農業が有機農法と呼ばれるものです。

また、肥料の窒素成分(N)のうち図①~③の炭素(C)がくっ付いているものが有機態窒素、微生物の働きや化学反応で炭素(C)との結合が切れた④を無機態窒素といいます。
そして、植物が吸収しやすい窒素(N)は④の無機態窒素です。

肥料中の有機鯛窒素と無機態窒素の違い
ぴっこ
ぴっこ

植物の吸いやすさのポイントは、炭素(C)と結合しているかどうか。

今回のイラストでは簡略したけど、
炭素(C)と切れた無機態窒素の「窒素(N)」は、実際にはアンモニア態窒素(NH3,NH4)の状態や、さらに分解が進んだ亜硝酸態窒素(NO2)、硝酸態窒素(NO3)の状態で土壌中に存在していて、植物に吸収されてるの。

植物にも好みがあって、アンモニア態窒素の状態を好むものもあれば、硝酸態窒素まで分解されたものを好むものもあるよ。
玄米が好きな人もいれば、お粥が好きな人もいるって感じね。

この説明は、また次の機会で!

窒素と微生物の関係

さて、土壌中の微生物は有機態窒素を積極的に分解し、窒素(N)炭素(C)の結合を切り離してくれます。
なぜ微生物は有機態窒素の下で、こんなにも働いてくれるのでしょう?

土の中の微生物は、生存競争を勝ち抜くために懸命に増殖しようとします。増殖のためにはエネルギーが必要ですが、有機体窒素の中からエネルギー源となる炭素(C)を抽出しているのです。
また微生物が細胞分裂を繰り返し増殖するためには、細胞の材料である窒素(N)が不可欠な為、分解された有機体窒素の窒素(N)もどんどん取り込みます。つまり、微生物そのものが窒素(N)を要素としたタンパク質の塊であり、有機物なのです。

さて、微生物が有機体窒素から取り込んだ炭素(C)は、エネルギーとして使用された後は二酸化炭素として体外へ吐き出されて土壌から消失しますが、窒素(N)は一部が微生物の体内に留まり、残りの一部は次に有機体窒素を分解する為のエネルギーとして再利用され、さらにその残りが植物の吸収できる肥料になるのです。

つまり有機肥料で植物の栄養となる窒素成分(N)とは、微生物の増殖活動の「おこぼれ」で生じる無機態窒素(N)なのです

ぴっこ
ぴっこ

微生物は自分自身が増殖するために働いているの。
べつに、植物の為にボランティアしているわけじゃないのよ。

窒素飢餓が発生する条件について

さて、ここからが本題の窒素飢餓の発生する理由についてです。

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微生物はエネルギー源となる炭素(C)と窒素(N)がある限り、増殖活動を繰り返します。窒素(N)は微生物と土壌との間を循環しながら再利用できる為、通常は二酸化炭素として大気に放出されてしまう炭素(C)が最初に枯渇します。そして炭素(C)がなくなると微生物の増殖活動は止まり、土壌には窒素(N)が残りますこれを植物が肥料として利用します。

しかしながら有機肥料中の元々の炭素(C)量が過剰だった場合、窒素(N)が先に枯渇してしまう場合があります。微生物は増殖活動に必要な窒素(N)を少しでも多く得ようと、余すことなく全ての無機態窒素(N)を微生物体内に取り込んでしまい、植物へのおこぼれは残りません。これが窒素飢餓と呼ばれるものです。

ぴっこ
ぴっこ

植物の為にあげた窒素肥料が、微生物に横取りされてしまい、植物が餓えた状態になっているの…

窒素は植物に欠かす事の出来ない大切な要素の為、窒素飢餓は生命の危機にも繋がる深刻な障害です。

化学肥料と混合で施肥設計している土壌であっても、微生物活動が活発になる炭素(C)過剰の有機質肥料を入れ過ぎた場合は、やはり窒素飢餓のリスクが生じます。窒素飢餓を回避するためには、有機肥料や、有機質を含む堆肥の炭素(C)濃度や発酵具合を確認しながら、施肥量を見極める必要があります。

C/N比(炭素窒素比)の見方 【窒素飢餓のリスクを下げる堆肥、有機肥料の選び方】

有機質肥料や堆肥の炭素(C)濃度を知る方法として、C/N比(炭素窒素比)があります。
市販品の場合は、成分表示表に記載があるので確認しましょう。「C」は炭素、「N」は窒素、この炭素と窒素の割合を数値として示したのC/N比で、数字で示されています。

そして、覚えておきたい基準値が「20」です。

C/N比=20という比率で、有機体窒素の分解で発生する無機態窒素の全量のうち、微生物が体内に吸収する量と、放出して次の分解に再利用される量との均衡がとれた状態になります

ぴっこ
ぴっこ

C/N比=20は、
【分解で発生する窒素(N)量】と【微生物が吸収する窒素(N)量】の差が
±0になる数値ね。

炭素(C)量が多いC/N比が20以上の場合は、分解で発生する窒素(N)よりも、微生物が吸収したい窒素(N)量の方が多くなるため、窒素飢餓のリスクがあります

逆に炭素(C)量が少ないC/N比が20以下の場合は、炭素(C)の枯渇により土壌に窒素(N)を残した状態で微生物分解が止まるため、窒素飢餓の心配はありません

一般にもみ殻などはC/N比が70~80程度と高く、牛糞は15~30程度、油粕や鶏糞などは10以下の低い傾向にありますが、同じ種類の有機肥料、堆肥であっても商品によって様々です。

またC/N比=20の見立ては、あくまでも有機肥料や堆肥の有機体窒素が全量が分解された場合であり、温度や湿度の条件、有機物の質によっては分解されない場合もある為、C/N比が20を超えたからと言って必ずしも窒素飢餓になるとは限りません。あくまで、目安としてとらえてください。

特に堆肥ではC/N比の高い場合の理由として、①そもそも発酵が不十分な為に炭素(C)が残っている場合と、②分解が難しい繊維質の有機質を豊富に含んでいる場合の2通りが考えられます。
①は窒素飢餓のリスクが高く、発酵が落ち着くのを待ってから使用するべき要注意の資材ですが、②の場合は水はけや通気性などの土壌の物理性を改善する、優秀な土壌改良資材として使える場合もあります。

ぴっこ
ぴっこ

バーク堆肥のC/N比は高いけど、含まれる有機物のリグニン等は普通の微生物では分解できない、とっても強固な炭素化合物。だから無機態炭素(C)が過剰になるリスクは思ったほど高くないのよ。逆に、繊維質であるリグニンが土の中で分解されないまま長く留まってくれるので、水はけや通気性を改善する優秀な改良資材になるの。

また鶏糞のようにC/N比が低い資材には、こうした土壌に留まる有機物がないということ。だから肥料効果はあっても、土壌を改善する効果は低いの。

C/N比が20より小さい資材

窒素飢餓の心配がない資材
窒素(N)肥料となるが、土壌改良効果は低い。

例)鶏糞、油粕など

C/N比が20より多きい


窒素飢餓のリスクがある資材
窒素(N)肥料にはならないが、土壌改良効果は高い。

例)もみ殻、バーク堆肥など


有機肥料や堆肥を使用する場合は、C/N比を確認することで窒素飢餓を回避することができます。

堆肥はC/N比が高ほど土壌改良資材としては有能なため、C/N比の高さだけを理由に必ずしも避けるべきではありません。ただし、土にすき込んだ後の発酵を見越して、予め別の窒素成分を多めに入れておいた方が良い場合もあります。

また熱を発しているような発酵が活発な状態の未完熟堆肥は、使用を控えた方が良いでしょう。

有機質の肥料や堆肥は、単に窒素(N)の補給以外にも、土壌微生物バランスを整え野菜の良好な生育を促す長所が豊富な資材です。上手に活用して、バジルや野菜が元気に育つ土づくりに挑戦してみてください。

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